コロナ離婚が増えている。日本のある調査では100人中、「離婚を考えるようになった人」は10人、「後押しになりそうな人」は13人と合わせて23人となった。「考えるようになりそう」を入れれば全体の38%にもなる。また別の調査では、同じく100人中14人が離婚を考え、実際に離婚したのが6人だという。100人中の6人は、言わば全体の“6%”。そのサンプルが偏っているかもしれないが、たいそうな数字ではないだろうか。実は現在の日本(平成29年度)の離婚率は“1.70”だという。これは人口1000人当たりということで、割合とすれば“0.17%”ということ。それに比べて、6%はちょっと数字が大きい。大半は在宅勤務による夫婦間のコミュニケーションが増え、結果お互いに愛想を尽かすという感じだ。通常はコミュニケーションが増えれば、仲良くなるものだが、日本人特有の“知らなきゃ良かった”事実が顕在化してしまったことが発端となっているようだ。それは、「家にいても何もできない。手伝う意識もない」など昨今言われる“家事シェア”の話や、「コロナ禍で自粛が求められる中、外に遊びに行ってしまう」といった人間性への疑問を感じたといったもの、さらには「ずっと2人で家にいることでストレスが溜まる」という、なぜ結婚したんだろうという根本的問題に根付くものまで多様だ。確かに外出や外食、スポーツや娯楽など、発散する機会もなく家に閉じこもっているとストレスが溜まるのもわかるし、一概に責め立てられない気もする。しかし、家庭内での暴力は論外だ。日本でもこのコロナ禍でDV被害が増えているという話も聞く。せめて「Fortnite」などのゲーム内で暴れ回ってくれるならまだいいのだが…。

欧米ではそのDV被害増加がさらに顕著らしい。スペインではこの期間でDVに関する相談が18%増加、フランスではDV事件に対する警察の介入件数がなんと36%も増加しているという。外を出歩くことが大好きなお国柄なのか、屋内滞在が続くと我慢ならないらしい。たまらないのは被害に遭う方だ。外出自粛なので逃げようにも逃げられない。さらに家の中のみならず、数少ない外出機会にも加害者に付きまとわれ、助けを求めるタイミングさえ全くないという。そんな中、スペインで始まり、フランス、ドイツ、イタリア、ノルウェー、アルゼンチン、米国とその範囲を拡げているのがこれらのDV被害者を救うための活動「MASK19」だ。

Image : © Gobierno de Canarias

「MASK19」は「COVID19」に掛けたネーミングで、カナリア諸島平等研究所のキカ・フメロが考案した。彼女は以前にも洪水や休暇中など、被害者がパートナーとより多くの時間を過ごすことを余儀なくされたときにこの虐待が急増することを知っていた。またフランスではサッカーの大規模トーナメント試合があったときに同様のことがあったという。どちらも加害者が家に長時間入り浸る状況だ。当然のことながら、女性がこのコロナの検疫中に平常時より多くの虐待に苦しんでいることを確信していた。そこでスペインでは“日用品やマスクを含む医療品を買う目的での外出は許可される”ことを活かし、被害者にとってワンチャンスかもしれないタイミングに、薬局からDV被害の通報ができるよう仕組み化した。マスクは必須だし、買いに行くことも自然だ。しかし、加害者はここでも付きまとったままなのだ。変に疑われないよう、普通に薬局にマスクを買いに行く体で駆け込み、そこで自分の名前や住所、電話番号を渡し緊急サービスに通報してもらう。その場で疑われてひどい仕打ちに遭わないよう、一旦は家に帰り助けを待つこともできるし、そのまま薬局で警察と支援者が到着するまで待つこともできる。一刻の猶予もないところまで来ていると、このような希少なタイミングを活かして対応せざるを得ないのだろう。

スペインではDV被害者を守ろうとする意識がとても高い。このサービスは社会に必須とされ、常にこの対応策が検討されている。コロナ禍による閉じこもりの環境におかれれば必ずDV被害が拡大すると状況を観察しつつ、即座にこの仕組みを立ち上げている。そして“その機会を捉えて通報する”というシンプルなやり方を、この変化する生活様式の中で自然に見えるようコーディネートしたところがアイデアと言えよう。恐らく加害者はなぜ自分がここで捕らえられるのかがわからないはずだ。いつ、どこで、誰が通報したのか。それがわかりづらい仕組みでもあるのだ。

DV被害に遭っていても、その先のことを考えるとなかなか通報を決心することができずにずるずるとその被害を長引かせてしまう場合もある。またせっかく決心したのに、その通報の仕方がわからず、うまく行かない場合もあろう。このような切羽詰まった状況において、シンプルな方法でそのきっかけを提供し、社会と協力しながら被害者を救うという成果をサイクルとして創り上げたのは素晴らしく、“タイミング”をうまく活用した事例と言えよう。

人の意識を変える、行動を促すため、このタイミングを活用した事例をカンヌライオンズからも紹介したい。「Smoking Kid」は、タイ健康振興財団(Thai Health Promotion Foundation)が仕掛けた禁煙推進のためのアクションだ。財団は長年にわたり禁煙啓発に取り組んでいる。無料電話相談窓口「1600 Quitline」を設置し、喫煙習慣を止めたい人の支援をしてきたが、相談件数は月に7000件程度とタイの喫煙者人口の約0.05% に過ぎない。恐らくストレートなメッセージを広告で呼びかけても、人々には届かないし、そもそも自分の事とも思わないだろう。そこで考え出されたのがネット動画によるバイラルキャンペーンだ。

動画では、タバコを吸う大人たちに子供たちが近付き、「タバコを吸うから火を貸して」と声をかける。驚いた大人たちは口々にタバコの害を語り始める。「タバコは悪いものよ。吸っちゃダメ!」「タバコには殺虫剤の成分が入っているのよ」「顔もシワだらけになるわ」「早死にするし、遊べなくなっちゃうぞ」「肺がんや肺気腫、脳卒中とかになってすごく苦しむんだ」と。しかし、子供たちから発っせられた言葉にハッとする…。「そんなに良くないことなら、なぜあなたはタバコを吸っているの?」。タバコの害については、それを吸っている大人たちは饒舌に語れるくらいよく知っていることがここではわかる。それこそ禁煙セミナーで言われたことがあるのか、あるいは家族からいつも言われていることなのか。純粋に真剣に子供の健康を心配し、あらゆる言葉でその喫煙を止めるよう説得する一方、その心配を自分自身には向けられないのだ。「わかっちゃいるけど止められない」そんな歌もあるが、それは自分への甘えである。自分が子供たちを心配するように、彼らを心配する家族や友人もいるはずだ。その人たちの立場になれば、やはり同じ事を自分が言われる立場になるだろう。最後に子供たちは、ある手紙を渡す。「あなたは私のことを心配してくれた。今度はあなた自身のことも心配してください」みんな呆然としつつ、先の子供たちを目で追うのだ。

このネット動画は、公開から10日間で500万回再生され、国内のみならず30カ国のメディアで報道された。公開翌月、「1600 Quitline」への相談件数はそれまでの平均より40%も増加したという。ついぞ忘れがちな何かに、不意打ちのように気付きを与えるタイミングも秀逸なのだが、自分自身の声でそれを発声させ、それが言霊のように自分に降り注ぐ。そして自分の健康を考え、また自分の健康を願ってくれているであろう家族や友人を思い出すわけだ。

SMOKING KID

もう一つ、その体験のタイミングによって強い意識変化を生み出した事例を紹介しよう。それが、米国のドナー登録を促進する啓発キャンペーン「Second Chances」だ。臓器提供は人間が与えることができる究極の贈り物かもしれない。人々は95%と、ほぼ全員がドナー登録の重要性を理解しているにも関わらず、米国ではその半分しか行われていないという。頭ではわかっているのに、なぜ行動に移せないのか。これは先の喫煙者が自分自身でその害を知りつつ、タバコを止められないのと同様の状況と言えるかもしれない。この状態を改善するにはどうすればいいのか、その背中を押してやるにはどんなきっかけが必要なのか。そこで、「Second Chances」キャンペーンが始まった。

この仕組みは極めて単純。人々が少し異なるシチュエーションでそのことを考えるタイミングを提供し、自問自答させ、行動を促す。設定されたのは、交通違反での検挙シーンだ。警察官が違反行為や違反行為を犯したドライバーを止める。そして警察官はおもむろにドライバーのライセンスをチェックする。これはいつもの手順と変わりない。しかし、もしドライバーライセンスにドナー登録の印となるピンクのマークを見つければ、警察官は警告のチケット「セカンドチャンスチケット」を渡すのみで、そのドライバーを無罪放免とするのだ。200ドルの罰金は払わなくて良い。逆に臓器提供者として登録していることへの感謝を警察官から受け取るのだ。すなわち、このドライバーには“セカンドチャンス”が与えられるわけである。ドライバーは、「何これドッキリ?」と思うのだが、“セカンドチャンス”の意味をその混乱した頭でもう一度考えることになる。そして理解するのだ。「私もドナー登録していることで、他の誰かに2回目の人生のチャンスを提供できているんだ」と。そしてドナー登録したことへの自負を感じ、しばし高揚する。その自己肯定感は自信に繋がり、他の人にも伝わっていくことになる。

このキャンペーンはカリフォルニア州オレンジ郡の2つの都市で、臓器提供月間となる4月1日に実施され、その後、カナダのカルガリーでも拡大実施されるなど拡がりを見せている。結果として、キャンペーン開始月にカリフォルニアでは11万609人の新規ドナーを獲得し、前年比で38%の増加となった。今ではさらに展開都市が増え、ビバリーヒルズ、アナハイム、ニューヨーク州が加わり、これを毎年繰り返すため準備が進んでいるという。実はこのキャンペーン、ドナー登録してない人にも“セカンドチャンス”を提供している模様である。警官のマニュアルには台詞もあるらしく、ドナー非登録者向けには「セカンドチャンスをキミにあげよう。今回は罰しないよ。その代わり、あなたもドナー待機者にセカンドチャンスをあげることを考えてみて」と語りかけられるらしい。大幅に伸びた新規ドナー登録者というのは彼らに違いない。

Second Chances

「Smoking Kid」にせよ、「Second Chances」にせよ、素晴らしいのはタイミングを捉えるプラスアルファの仕掛けがあることだ。「Smoking Kid」は体験者をハッとさせる、「Second Chances」は疑似体験させることだ。これによってさらに大きな成果をもたらしている。人は説得されても動かない。また頭でわかっていても行動に移れないことはよくあることだ。それを実行動に結び付けるには、そのターゲットをよく観察し、彼らを動かすツボを捉えることだ。現在、コロナ禍によって人の価値観や行動は大きく変わってきている。この状況をきちんと見据えて、「どういう言葉を投げかけられたら気持ちが動くのか?」「どういうシチュエーションに遭遇すれば、行動を起こすのか?」「時間は、季節は、場所は?」「誰から言われるのが一番効果的?」「子供から、親から、親友から?」これらを細かく想定し、さらに立体的に複層的にシーンを創っていくことがこれからは非常に重要になっていくだろう。