エンタメとは何か?

エンタメとは何かというのは、人間の勝手なカテゴリー設定だと思うんですよね。だからそれがエンタメで、どれが違うとかっていうのは、本当の正解はないと思います。その境界線を引いておくことで、自分はこのカテゴリーに属しているってだけの安心感のような。もう一つ、特に最近感じているのは、エンタメはビジネスじゃないなと。最近子供ができたことが大きいとは思うんですけど、子供は言葉を覚える前から音楽でもダンスでもノってきますから。本能的に心や体が動いてしまうのが、エンタメの本質なんじゃないかなと。だからビジネスというよりも、コミュニケーション手段の一つなのかなと思います。例えば、日本人は外国人とのコミュニケーションでも言葉が通じるかどうかから確かめる、それがダメだとコミュニケーションを諦めようとしてしまう。外国人の方はもっとポジティブに、最初からボディランゲージみたいな接触してくる。場に合わせて、歌ったり踊ったり。でもそれで通じ合っちゃったりするから。日本人ももっとその辺でオープンマインドになれるともっと楽しいはずなんです。そして、その意味でエンタメは世界を繋ぐ共通語みたいな役割があるんじゃないかなと。

PPAPにもそのエッセンスが?

僕は“ファースト・インプレッション”を大切にしてます。最初に見て、聞いて、触って、など。そこで全ては決まる。理解度も全然違う。また長々と説明しない。1分くらいで全部言い切れる感じが記憶にも残りやすい。PPAPのピコ太郎の演出では、音楽の奇抜さ、ダンスの楽しさ、見かけ、ビジュアルの面白さ、実はそれぞれが考え抜かれてる。どこから入ってもわかりやすいのがポイントじゃないかなと。一番純粋な子供から、色々見てきたおじいちゃんやおばあちゃんまで、ともかく理屈なくそのまま受け入れられるものが強いと思います。いつも僕が曲を創るときは、名前も顔も知られていない地方のスーパーでステージに上がったときに、「どれだけの人を笑わせられるか」などお笑いのステージをイメージしながらやってます。お笑いで言えば、その知名度である種の空気感が創れてしまう。それがその人のブランドであり、蓄積の強さ。先入観も基礎知識もない中でいきなり笑わせることができるような攻め方を常に考えています。一方で、曲作りにはちょっとしたチャレンジも入れています。一応プロとして、そのシンプルな中にも、玄人好みのネタを入れておく。その人たちにもハッとしてもらいたい。パッと見はわからないんですけど、よくよく見て聴いてみると「おいおい、こんなふざけた曲でこんな楽器、こんなフレーズ使ってやがるぜ!」と気付いてもらいたい。そこはある意味、お笑いでもあると思います。

国を超え、人種を越え、共通する感情を発見するにはどうすればいいのか?

ピコ太郎と世界を回るようになってからそれに気付いたかもしれません。そのときはまだ虚ろな記憶なんですけど、あのときあの子たちはあんなことで笑ってたな、喜んでたなと。例えば子供って、うれしいとところ構わず跳ね回るんですよね。でもそれって人間の原始的な部分で、よくコンサートで頭をガンガン振る“ヘッドバンギング”ってあるじゃないですか。あれもそれと原点同じかなと。最近創った「Hoppin’ Flappin’」はまさにそれを再現してみた。ともかくあれをBGMに飛び跳ねたら楽しいんじゃないかと。手洗いソング「PPAP-2020-」は、各国で歌われているようなものをピコ太郎バージョンで創ってみただけなんだけど、1000万回以上再生されてる。そこにそんなに違和感を持たずに誰でも聴いてもらえたんじゃないかなと思います。

PPAP後、日本の外務省からSDGs推進大使を委嘱され、ニューヨークの国連本部にも行きましたね。そういう社会を良くすることに取り組む意識が目覚めたのはその頃?

いや、そもそもピコ太郎の目標は3つあって、①世界平和、②家族・友人への愛、③宇宙物質ダークマターの存在証明です。そのまさしく“世界平和”の活動のうちの一つと捉えてもらえれば。一般人が「世界平和を目指します」と言えばそれはお笑い。「何言ってんだか」と笑わせながらも、一歩一歩それに近づいているなら、それを達成したときにもう一度笑えるくらい大きなオチ。誰もやっていない“ブルーオーシャン”でもあるし、その先で言えばノーベル平和賞取っちゃうくらいを目指しています。あとはアリアナ・グランデとのコラボとかかな、やりたいのは。壮大過ぎて、笑いになる。でも言っていれば実現に近づいていく気もするんで。肩に力入れずやってれば、そのうち辿り着くかなと。

コロナ禍のアーティストということでは、事例にあるトラヴィス・スコットの「Fortnite」内ライブはどう見ますか?

うらやましい限り。僕は「Second Life」なんかでは結構先行して色々やっていたつもり。ちょっと廃れちゃったけど、このバーチャル世界で何かやるというのは実は僕も準備してた。コロナで動けなくなっちゃったけど。そんな中で見た、トラヴィスのバーチャルライブのファースト・インプレッションは映像がとんでもないと思った。アーティストがでかくなっているという意味の分からなさ。迫力がスゴい。それで圧倒される。で、ゲームの中、CGだとやっぱスピード感が出ないんだけど、どうするのかなと思ってたら瞬間移動をさせちゃう。ここでしかできないことをやっている、という演出の良さ。僕は世界は2つあると思っていて、こっち側の世界では現段階の最高峰だと思いましたね。ゲームやってる人からしたらそんな楽しいことなんてないですよ。ただ今後は全てがこうなっていくわけではなく、2つに分かれていくんじゃないか。この世界観が大きくなっていくというか。「Fortnite」のユーザー数は3億5千万人、それが十何億人になってこのトラヴィスのようにマネタイズできる人がどんどん出てきてリアルとトントンになっていくんじゃないかと。だから、リアルな場も捨てられないし、むしろやっていかなきゃだと思う。

デンマークのドライブインコンサートみたいなリアルイベントのやり方も出てきてます。

これは日本でやっていたらすぐ行ったなー。何だかんだ、人がリアルに見えてるってことはその伝わり方が全然違う。遠目であっても、オンラインで顔見るのとは格段に伝わる情報が多いですよね。その表情、動き、温度感など。それがないと本当の意味でエキサイトできない。たとえ観客がクルマに乗っていたとしても、その関係性はやっぱオンラインより深いと思うんです。あと、ここの参加者には、ステージ以外のストーリーがある。家から会場までのクルマでの道のり、そこで話した会話、集ったクルマ同士の存在感、FM電波を通じた「同じ音聴いてる」という連帯感など。そしてそこに生まれるリアルタイムのインタラクティブ感はオンラインでは絶対出せない。そんな瞬間瞬間を集中して聴いてこそ、感動も残るんじゃないかなと。だから多分、バーチャルでいろいろやり方を学んで良いところも経験したけど、やっぱリアルはなくならないと思いますし、あって欲しい。

芸人、プロデューサー

古坂大魔王

1991年に「底ぬけAIR-LINE」でデビュー。2016年にプロデュースしたピコ太郎の「PPAP」が世界的に大ヒット。YouTubeミュージック再生ランキング3週連続で世界1位を獲得。また、「Billboard Hot 100にランクインした最も短い曲」としてギネス世界記録に認定される。2020年4月に手洗いソング「PPAP-2020-」YouTubeにて公開。薬用石鹸「PIKOWash!」の発売や「ピコ太郎の手洗い推進ポスター」を無償提供するなど、手洗いによる感染防止の啓発に貢献している。