ソーシャルメディアやSNS上の匿名による誹謗中傷が問題になっている。それは人を傷つけ、時にはその命をも奪う。人は個人特定されなければ、そんなにも残酷になれるものか。ソーシャルメディアのユーザーでも、正体を明かして発言する人もいれば、匿名のまま漂って言い散らかす人もいる。またそれを容認したままのメディアも問題視されている。以前のリアルな世界で人々は、その立場から忖度し発言に躊躇することが多かった。しかし、匿名で発言できるデジタルスペースを見つけた人々は、自分の意見を忖度なく言える場所として重宝にし、また自身の発言に共感が集まることを体験し自己肯定感を高めていった。これまで承認欲求を満たされず、リアルな場では時に緊張し、心を閉ざしがちだったこともあるような人が、その居心地の良い場を見つけ表現を重ねたくなったことについては、ソーシャルメディアの価値も評価されるべきだろう。しかし、何事も過ぎれば害となる。その居心地の良さに胡坐(あぐら)をかき、好き放題してしまうと特有のベネフィットはいずれ消失してしまう。要はバランスが大切だということ。リアルの鬱憤をデジタル上で発散しても、リアルの問題は解決しない。言い放って気分が幾分晴れたとしても、それが起因となってリアルに向かい合う機会を阻害することになる。いつしかリアルな接点を一切求めなくなるようなことさえ起きてしまいそうだ。

さて、突然のコロナ禍で日常生活に入り込んできたリモートワーク。在宅勤務や外出自粛のおかげでECサイトは軒並み好調だという。ボタン一つで何でも手に入る、店舗に行って商品の説明を聞かなくても、サイトのレビューを読めば何となくクオリティもわかるとなれば、実店舗を訪れる必要性も薄れてくるのは仕方がない。面白いのは洋服や靴など、「実際に試着してみないとちょっと買えないよね」と思いそうなものでさえ、普通にECでやりとりされていること。「その素材の質感や着心地、履き心地などはやはりリアルでなければ」とも思うのだがそうでもないらしい。そんな生活者の認識や行動を背景に、危機を迎えた中国の靴店がある。創業167年の老舗靴店「ニーアリンシェン」だ。過去には毛沢東も顧客であったという。しかしこのコロナ禍でご多分に漏れず、北京当局の検疫措置により店頭営業が禁止されてしまう。長い歴史でこれまで培った店舗営業や接客ノウハウがある日、突然封印されてしまったのだ。通常であれば途方に暮れるが、彼らは強かった。まるで経験のない、オンラインで顧客と繋がる「ライブコマース」に打って出たのだ。

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“ライブコマース”とは何か。これはライブ配信とECを掛け合わせたサービスだ。配信者がライブ動画を通じて商品を紹介し、視聴者がそれらを直接購入できる。パッと見は「ジャパネットたかた」のように思えるが、テレビで多くの視聴者に向けて情報発信するショッピング番組とは違う。また“ユーチューバー”のような個人のネットストリーミング配信とも異なる。ライブコマースはライブ配信ならではの親しみやすさ、出演者との双方向コミュニケーションが特長だ。視聴者との距離感がとにかく近く、視聴者とショップの関係というより、友達に勧めめられているような感覚が近いかもしれない。またライブ配信なので動画編集されていなく、その使用体験に嘘のないリアル感がユーザーにウケている。さらに、質問やリクエストなどにその場で答えることで、ユーザーの疑問や不安を即座に解決するのだ。これらがユーザーのニーズを満たし、購買意欲を上げることにも繋がっている。しかし双方向コミュニケーションといっても、堅苦しいものではとっつきにくいはずだ。ここでは商品そのものの仕様や価格を語るのではなく、その商品がどのように視聴者側のベネフィットになるのかをきちんと伝えるように心掛け、視聴者側の“共感”を徐々に醸成していく。“モノからコトへ”“プロダクトファーストからコンテンツファーストへ”。そのアプローチの仕方は従来のテレビショッピングやネットショッピングと大きく異なる。決して売りつけられている感じや、急かされる感覚はない。だんだん視聴者は司会のファンとなり、コアファンに育ち、エンゲージメントを深めていく。今後、ライブコマースはインタラクティブ性を活かして、企業・ブランドとユーザーの間でロイヤリティを醸成する役割も期待される。

技術的な部分でも工夫は多い。スマホを介したアクセスにおいて、特有の縦動画撮影を用いたカメラワーク、それに適した照明・音声など、技術的にしっかりとプロフェッショナルな体制がとられている。さらに、コメントやアンケート機能、番組中に賛意を表すハートボタンを押すとライブ画面に流れるなど、双方向の効果を上げる仕組みが投入されている。このような共感の形を可視化することで、番組に参加しているという一体感がより得られやすくなるのだ。そのほか、画面上に流れるアイコンに合わせてスクリーンショットを促すゲームが用意されたり、出演者がスマホを手にして視聴者から寄せられたコメントを読み上げたりといった工夫がそこかしこにある。ただ最後は、「誰々の着ているこの服がおしゃれ! 私も欲しい!」といった共感からの購入が多いようだ。この業界からもインフルエンサー的な存在が続々生まれそうな気配さえ感じさせる。そしてユーザー間でSNSなどを通じ、商品情報や口コミの2次拡散・3次拡散も期待でき、マーケティングやプロモーションにおける費用対効果が高いことも企業としては魅力だろう。

このような成功例もあり、中国企業は続々このライブコマースに進出し、その経験値を上げているらしい。杭州のアパレル企業は、この環境にも関わらず、前年比10%増の売上を果たすなど好調だという。中国では2018年までにライブコマースユーザーは2億人以上に膨れ上がっていると環境も上々だ。例えばライブコマースで“売上”を創るだけでなく、施設のご紹介も合わせて“訪日インバウンド”を促すことも可能だ。“その商品からその施設へ”“その施設からその土地へ”。一商品への接触から訪日までのプロセスまでをここで構築することも可能だろう。このように中国全土で、さらに業種を拡げてこのライブコマースが普及・加速している。今後、中国向けのインバウンド対策においてもライブコマースが重要な位置付けとなることは間違いないだろう。極力、人の関与やリレーションを排除したシステマティックなECとは異なり、オンライン上ではあるが人と人とのやりとりの中で商売を成立させていく。デジタルの中での“人”の売る力がものを言う世界が出来上がってきたという逆説的な現象が発生していると言える。デジタルで繋がり、人間力で売る。そんな新しいものと古いものの、奇妙なタッグが新たなセールス体験を生み出すという希有な状況を作り出している。

しかしオンラインであるとはいえ、それはさながら、店頭でのわちゃわちゃした買い物風景が再現されているかのようにも感じられたりもする。この風景、思い返せばリアルな場では結構ウザい印象ではなかったか。商品を見ていたら店員がすぐさま近づき、声がけしてくる。まずは自分で商品を確かめたいのだが、売りたい一心でやたらとリコメンドしてくる。それも、自分が聞きたいことではないことを延々説明していたりして…。それに辟易してすぐさま売り場を離れてしまう自分がいる。まあ、ECでもう一回探してみて買っちゃおう、なんて。オンラインでは、実はそんな体験が逆に楽しく思えるらしい。リアルでのウザさもなく、次々と聞きたいことを質問していることに気付く。そして好奇心を全て満たし、ユーザーは満足して靴を購入し、店を後にする。そう、PCやスマホを閉じることで。他にもリアルで苦手だったものが、デジタルだと受け入れられるケースをこのコロナ禍で経験した人は多いらしい。例えば学校。オンライン授業になったら、これまでの不登校児が熱心に授業に参加していたなど。リアルな世界とデジタルの世界では、少々お作法も異なるようだ。その場の違いで、活躍できる人も変わってくるのかもしれない。

EC絡みのみならず、オンラインでもわざわざ人との繋がりを感じたいと思わせるサービスがあるようだ。それが“オンラインジム”だ。ご存じのように、各地のフィットネスジムやスポーツジムで新型コロナウイルスのクラスター(感染者集団)が発生し、各所が休業を余儀なくされた。感染が治まりつつある現状でも、やはり飛沫感染の可能性が高いと会員の多くが退会や休会の措置をとっているという。ジムに行けず、さりとて外出もできず、限られた時間で自宅周辺のジョギングなどで運動を続ける工夫をしている人もいるが、北半球ではサマーシーズンを迎え、マスク装着状態での運動も厳しい状況になってきた。そして、“コロナ太り”と呼ばれる、在宅による運動不足と過食が原因で少々体重増加してきた人が増え、自身の惨状を憂うソーシャルメディア投稿なども目立ってきている。そんな人々を救うべく、早期にレッスンを対面からオンラインに切り替えて、緊急事態宣言以降も指導を続けているジムがある。オーストラリアのジム「Fitness Playground」だ。

このジムを営むジャスティン・アシュレイは、なんとロックダウン後たったの1週間で、オンラインワークアウトをサブスクリプション形式で提供するシステムを立ち上げたという。彼は今後これまでのようにジムに通って運動する人は減少し、オンラインでのレッスンなどに移行する人が多くなると予想している。オンラインジムは自然な形で受け入れられ、コロナ禍が落ち着いた後も継続して活用されていくと考え、いち早くオンラインへの切り替えを判断したのだ。しかし、そもそも一番危惧したのは従業員たちの仕事が継続できるかどうかだった。「Fitness Playground」は業界チャンピオンを含む多数のパーソナルトレーナーを抱えており、トレーナーの指導に対する顧客の満足度が高かった。人と人が繋がれればリアルでもオンラインでも需要はあると確信できたのは、日頃から顧客と深い関係性があったからだという。彼は、今後ワークアウトは、1980年代のようにジムに通わず自宅で行うことがトレンドとして戻ってくるかもしれないと語っている。これを見ると、ここでもやはり歴史は繰り返すということを痛感せざるを得ない。

個人の有名トレーナーたちも、これまでのソーシャルメディアのみならず、YouTubeチャンネルを開設し、よりしっかりとしたメソッドを契約ユーザーに伝授しているらしい。そもそも自分の体型に自信がないユーザーは、集団でのフィットネスや有名トレーナーによるパーソナルトレーニングなどに対して、少しばかり臆することもあっただろう。「レッスン全体の足を引っ張らないだろうか」「まだ初心者の私がこんなプロに指導を頼むなんて笑われるのではないか」と後ろ向きになってしまうわけだ。しかしこのオンラインレッスンがあれば大丈夫だ。フィットネスで飛び跳ねるときでも横の人が気にならないし、パーソナルトレーニングでもオンラインなので近接せず緊張することもないのだ。その中でも人気急上昇なのが“フィットネススター”と呼ばれる人たちによるレッスンだという。日本ではフィットネスジムなどのインストラクターは少しばかり裏方のようなところがある。もちろん最近では、顔が知られてきたパーソナルトレーナーもいるだろうが、何せ海外では“スター”なのだ。これらの人々は均整の取れた筋肉を惜しげもなく晒し、ユーザーたちの羨望の眼差しを集める。「この人のような身体になりたい!」「この人のトレーニング方法だけでなく、生活そのものをマネしたい!」と、一気にファンになる人も少なからず存在するという。ジョー・ウィックスはイギリスのフィットネスコーチで、テレビ番組「The Body Coach」のプレゼンターでもある。彼はオンラインフィットネスのオリジネイターとも言われ、すでに2014年からオンラインフィットネスのレッスンを始めたという。彼のフィットネス方法は、短く激しい高強度インターバルトレーニング(通称HIT)だ。15秒程度のプログラム動画をソーシャルメディアに投稿することから始まり、やがてInstagramとYouTubeで最もフォローされるフィットネスアカウントの一つとなっている。また彼のプログラムは、運動のみならず食事と組み合わせたところが特長で、最初に出版したクックブック「Lean in 15」(15分の食事とワークアウト)は90万部以上を売り上げている。このコロナ禍において、彼は学校を巡って子供たちに運動方法を指導する予定を切り替え、ソーシャルメディアからフィットネスレッスンを無料配信し、自宅待機の子供たちのストレス解消に努めている。リアルでなくともオンラインで指導を仰ぎ、“フィットネススター”と触れ合えるとすれば良い体験となろう。ちなみに、このライブストリームは幅広い影響を与え、世界中の100万人を超えるユーザーに視聴されたという。

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オンラインレッスンが普及する一方で、自宅にそのためのスペースを用意したいという声も増えている。それを受けてどんなに小さなスペースでも、それなりのデザインで自宅をジムのスタジオ風に改造してくれるサービスもあるようだ、しかし、トレーニング機器を置くとなるとやはり相応のスペースが必要となる。その課題に対して米国Mirror社の「Mirror」は、全身鏡のようなスクリーンを壁に立てかけるだけの、これまでにないフィットネス機器を提案している。インテリアとして全く浮き立つことなく自然な印象で部屋に溶け込み、トレーニング時にはその前に立ってトレーニングできるというものだ。追加オプションとして、インストラクターとライブで繋がるオンデマンドレッスンも受けられる。その際、鏡は自分のフォームなどをチェックする他、インストラクターの姿が現れて指導してくれる。まるでスタジオにいるかのようだ。またスクリーンに埋め込まれたカメラで撮った姿をインストラクターに送り、個人レッスンを受けることも可能である。このような事態ではやはりテクノロジーやデザインはうまくフィットしてくるものだ。これほど機器の進化を見せつけられれば、この機会に一気に自宅のジム化を進める人が多くなるかもしれない。これからはジムに指導を仰ぎに行くのではなく、自宅にオンラインで指導者を招く時代となりそうだ。

いずれにせよ、一人で孤独にトレーニングを続けるのはメンタル上、非常に難しいことのように思える。最近人気の集団で自転車を漕ぐ“暗闇バイクエクササイズ”なども、集団だからこそ気持ちが乗りやる気が出るプログラムだ。オンラインでトレーナーと繋がり、さらに参加者同士も横に繋がり、あたかも集団レッスンしているような環境でこそ、その楽しさや成果を満足感高く享受できるのだろう。オンラインジムはそのようなベネフィットをも生み出し、新たな顧客を取り込むことができる可能性もあろう。

カンヌライオンズの事例でも、デジタル一辺倒ではなく、そこに人を介在させることで大きな成果を上げた取り組みがある。それがスウェーデン政府観光局が行った観光キャンペーン「The Swedish Number」だ。スウェーデンは250 年前に世界で初めて検閲を廃止し言論の自由を確立した国。これを記念してスウェーデン政府観光局は自国民がスウェーデンを自由に語りアピールする自国PRキャンペーンを実施する。まずは国を代表する“スウェーデンさんの電話番号”を作り、観光情報の問い合わせ窓口として広く紹介。ここに世界中からかかってくる問い合わせに対し、スウェーデン国民がそれぞれ国の代表として応答し、思い思いに自国の良いところを語る。

世界初の“国直通番号”にかかってきた電話は、事前に登録された各“スウェーデン大使”にランダムに転送される。そして、電話に出た各“スウェーデン大使”から、気候のこと、風土のこと、食や生活のこと、スポーツやイベント情報など、スウェーデンにまつわることを自由に聞くことができるのだ。この“スウェーデン大使”は、実は自国に住むスウェーデン人であれば誰でも可能。大使になりたい人は、専用ウェブサイトに自分の電話番号を登録する他に事前調査はなく、もちろん模範解答などもない。誰でも国の代表になれるわけだ。こんな気持ちいいことはない。この大使にはおよそ2万人を越える国民が登録したという。この仕組みにより、お決まりの観光情報ではなくリアルなスウェーデンを自由にさらけ出すことで、スウェーデンの魅力を国内外にたっぷりとユニークに伝えることに成功した。2万人を数えた“スウェーデン大使”は、薬剤師からウェイター、ファーマー、トラックの運転手など職業もバラバラ。その目線や価値観も当然バラバラなので、お勧めの観光場所や食事なども百人百様だ。また寄せられた質問も、オーロラのことであったりミートボールのことであったり政治のことであったりと様々。こんなに混沌とした観光ガイドだが、利用者はとても楽んで人にも利用を勧めたそうだ。スウェーデンのことを聞きたければ、現地の人に聞くのが一番。現地の人が、包み隠さずありのままのスウェーデンを生の声で語るというちょっと驚きの仕掛け。誰にあたるかわからない偶発性、人間同士のやりとりの暖かみなど、テクノロジーが進化する現在では逆に歓迎されたようだ。ともすれば、顧客対応さえ AI に置き換わりそうなこの時代に“リアルの価値”が感じられる取り組みだったと言える。

THE SWEDISH NUMBER

エンターテインメントジャンルでも述べたが、どんなにデジタルが加速したとしても、人は人とのリアルなやりとりを求める。もちろん効率化を求めれば、観光問い合わせにAIで答えたり、靴は人手を極力排してECで売るのでいいのかもしれない。しかし、なかなかそれだけ、ということにはならないだろう。一方、ここで取り上げた新たな取り組みの中でもやはりそれぞれ試行錯誤をしながら適正なバランスを見つけていく必要はあるだろう。そしてこの適正なバランスは人々の中で徐々に改善、定着していくものなのだ。